【対談】シタテル× KESIKI×Bonds Investment Group

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「在庫ゼロ」の仕組みで既存のアパレル産業に革新を起こす、シタテル河野秀和 × Bonds Investment Group 細野尚孝 対談インタビュー

あらゆるところで従来の産業構造に制度疲労が生じつつある今、既存のあり方に革新を起こすベンチャーやスタートアップの登場が求められている。Bonds Investment Group(以下、BIG)のデザイナーやブランド、企業、EC事業者などの登録者と工場・サプライヤーとをクラウド上で結び、受注・生産・販売をワンストップで行うことで「在庫ゼロ」の衣服販売の仕組みを提供するシタテル(以下、シタテル)。ここでは対前年比200%で成長を続ける同社の代表・河野秀和氏とBIGで同社を担当するパートナー・細野尚孝氏の対談を、KESIKIの九法崇雄氏をモデレーターとして交えてお届けします!

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「現行のアパレルの流通構造を変えたい」という思いが結んだ出会い

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九法:以前、BIGの野内代表に「最もBIGらしい投資先はどこですか?」と伺った際に出てきた名前がシタテルでした。そういう意味でも河野さんと細野さんの対談はふさわしい組み合わせです。まずは河野さんとBIGが出会ったきっかけについてお伺いしたいです。

河野:BIGとの出会いは2016年にシリーズAの段階で資金調達をしていた時に、ラクスル株式会社(以下、ラクスル)で取締役CFOをされている永見 世央さんから紹介されたのがきっかけです。永見さんと知り合ったのも、紹介だったので、紹介からの紹介で導かれた形ですね。そして永見さんから直接、細野さんに繋いでいただきました。

九法:なるほど、最初は永見さんからの紹介が始まりだったんですね。ラクスルも複数のVCから投資を受けているベンチャーなので、きっと永見さんからは他にもいくつかのVCを紹介されたと思います。その中で彼がBIGについてどんな説明をされていたか覚えていますか。

河野:永見さんからは確か3つのVCを紹介された記憶があります。具体的な言葉までは覚えていませんが、ラクスルさんも既存の産業構造の仕組みを変えるというテーマを持った企業なので、同じ産業課題解決型のビジネスモデルである弊社を見て、ご自身の会社も投資を受けている中から最も適していると感じたBIGさんを紹介していただいたのだと思います。

細野:私が永見さんからシタテルさんを紹介された時は「アパレル版のラクスル」だと仰っていました。やろうとしていることもラクスルさんと似ているので「きっと相性が良いですよ」って。

九法:スタートアップ界で超イケてるCFOとして認知されている永見さんのお墨付きもあって、信用が持てる企業だと感じたんですね。そうしてお二人の関係がつながるわけですが、最初はどんな話をされたか覚えていますか。

細野:初めの面談の時は、河野さんと当時のCFOの方がお二人で弊社にいらっしゃって、私と2対1でお話ししました。CFOの方がいろいろとお話をされる横で、すごく無口な人だと感じたのが河野さんの第一印象です。きっと数字の部分やKPIの進捗とかプランニングの部分はCFOの方に任されていて、ビジョン的な部分な強い方なのかなと。そんな印象でした。

九法:その時に河野さんが語られていたシタテルさんのビジョンや未来に関することで、細野さんの中で印象的に残っていることはありますか。

細野:初回は一旦提案をいただいて検討しますというところまでの話でしたが、その中で「現行のアパレルの流通構造を変えたい」とお話しされていたのが強く印象に残っています。歴史的な構造が業界全体に大きな負をもたらしていて、それを壊したいと仰っていました。

九法:河野さんから見た細野さんの第一印象はどんな感じでしたか。

河野:そうですね。それまでは金融機関系VCや事業会社系VCとのお付き合いが中心だったので、独立系VCの方ということで、それまでお会いした方々にはないプロフェッショナル性を感じました。永見さんの紹介ということで、おそらくラクスルさんの衣服版という目線で見られていたと思うんですが、そこに話を合わせながら最初からいろいろと厳し目の課題をいろいろと頂いて次の段階に進むことができました。まず全体の話を私がして、詳細な部分を2人で話してという感じだったんですが、当時は名もなきスタートアップだったので、何とかかいくぐったという記憶があります。

九法:「厳し目の課題」の中には具体的にどんなものがあったんでしょうか。

河野:例えばラクスルさんと比較する中で、再現性というか、どう成長していくのか、同じようにスケールしていくのかっていうところを見られていたんだと思います。ラクスルさんと比べて、ここが足りていないとか、ここがもうちょっと考えた方がいいなど、多くの気付きをいただきました。

細野:当初、ラクスルさんに比べてシタテルさんは市場が小さいと思っていました。ラクスルさんがホリゾンタルなビジネスでいろんな業界に使ってもらえるのに対して、シタテルさんはアパレルに特化しているので、市場をかなり寡占しないと厳しいんじゃないかというのを大前提として考えていました。それゆえ、競争力があるかどうかを当時は厳しく見ていた気がします。「本当に勝てるのか」というところを何度も聞きました。

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事業を継続してこそ永続的に産業を変えられる

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九法:そこから実際に投資を決めるまでにどういったプロセスがあったのでしょうか。

細野:まず私と会った後に投資を検討するかしないかの初期検討をします。それが終わった段階で改めてピッチに来ていただきます。その時にパートナーやキャピタリストを含めて議論をして次の検討会に進みます。この検討会がプレの投資委員会的な役割も担っていて、これを通過すると最終的な投資委員会に進むというプロセスです。ここまでだいたい2、3ヶ月が平均的ですが、シタテルさんの時は少し長くて、最初にお会いしたのが前年の年末で、投資に至ったのが2016年の4月なので4ヶ月くらいの期間をかけていますね。

九法:その間、細野さんのお話しにある通り、ピッチなどでは「本当に勝てるのか」という質問を多くされたと思いますが、それに対して河野さんはどんな話をされたのでしょうか。

河野:やはり市場規模が小さいのではないかということを気にされていたので、「実際には大きいんですよ」という話を訴え続けました。最初は数字的な部分も盛り込んでいましたけど、段階が上がるに連れて細野さんからは「もっとビジョンについて語った方がいい」とアドバイスをいただきました。一方で、注目のベンチャーといった形でメディアなどに露出する際に「アパレル産業を救う」とか「社会課題を解決」というメッセージを強く求められることがあって、自分たちの中にはそれもありつつ、自分たちの中ではしっかり利益を出して事業を継続してこそ永続的に産業を変えられるという思いの方が強くありました。その上で、いろいろ話していく中でとBIGさんとなら一緒にやっていけるという確証が持てました。

九法:世の中では社会課題変えると声高に叫んでも、実は足元がおぼついていたり数字をちゃんと積み上げられないスタートアップはたくさんあります。シタテルはそうなりたくなくて、ちゃんと数字を積んだ上に社会課題の解決があると考えていて、そこを一緒に歩めるVCとしてBIGと良いマッチングができたということですね。

河野:今でこそ「社会課題を解決する」とか「産業を変革する」というのが熱いワードになっているような気がしますが、BIGさんは当時からいち早くそういったところに着目されていましたよね。それに、ただリターンを求めるだけでなく一緒にやっていこうという印象で、細野さんも「見ちゃおられん」という感じで、最初の頃は厳し目のフィジカルコンタクトで助けていただきました。

細野:ちょっと待って! さすがに“フィジカル”はなかったでしょ(一同、笑)。

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投資委員に送った熱いメッセージ

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九法:先ほど、シタテルは従来よりも長い検討期間を要したというお話がありましたが、BIGの内部ではどんな議論が行われていたんでしょうか。

細野:これは河野さんにも話したことがないんですが、実は内部には反対意見の強い声はずっとありました。そこで僕から投資委員に熱いレターを送った記憶があります。収益性については正直時間がかかるビジネスだと思う。ただ、シタテルは日本のアパレル業界を変革に本気で向き合っている企業で、こういう既存産業の負の部分に向き合っているスタートアップはなかなかいない。こういう骨太のベンチャーが日本に出ていくこと自体に価値があるから僕らはそれを応援すべきだと、とにかく僕の熱い思いを伝えましたね。

河野:それは知らなかったです。

細野:初期段階で3年間で売上高100億という事業計画を出されていたので、それはいくらなんでも無理でしょう(笑)って思いながら、それでも思いがあるというか、取り組もうとする課題が大きかったので支援することに価値があると感じていました。委員からは特にレスポンスはなかったので、そのメールに実際の効果があったのかはわかりません。ただ、私の経験の中でも、投資に難儀した時にそんな風に腹を括って投資実行に至ったケースは数件しかなく、間違いなくシタテルさんはそのうちの一件です。

九法:そう思わせるだけの魅力がシタテルと河野さんにあったということですね。

細野:そうですね。河野さんに運転してもらって、熊本県の工場やショップにもヒアリングに行っているのですが、どちらもシタテルさんのビジネスに親しみというか、価値を感じてくださっていたんですね。そういう地場の産業を巻き込んでエコシステムを作ろうとしているところがとても魅力的に映りました。工場に伺うと社長さんが親戚のおじさんのようにシタテルさんについて話してくれて、きっと周りの皆さんもこのサービスを一緒に育てて行こうという感覚を持っているんだなって。それから子供が学校から帰ってきて、そのまま社長と庭でキャッチボールをしていて、そんなほのぼのとした風景を見ながら僕らもこういう風景を守りたいと思いました。そういう周りにいるステークホルダー全体を含めて評価をしたというのが正直なところです。

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日本のアパレル市場の在庫消化率を2025年には70%に

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九法:そうして実際にシタテルへの投資が決まったのですが、細野さんが投資先の経営者に特に求めることは何でしょう。

細野:求めることはいろいろありますが、その中でも経営者の方にはできるだけ“楽な道”を選んで欲しくないと考えています。線形にそのまま行くとどうなるのか見えるような形の経営だとストレッチが低いので、そんな低い目標でいいのだろうかと思ってしまうんです。河野さんにも、よく他のベンチャーを引き合いに出しながら、この目標でいいんでしょうか、もっとアクティブに動かなきゃいけないんじゃないでしょうかと最初の頃は口酸っぱく問いかけていた覚えがあります。

九法:具体的に指摘されたポイントはどんなところでしょうか。

細野:そうですね。例えば、初期の頃に「役員会のレベルが低い」と言ったことがあります。一生懸命がんばっている感じは伝わってきたんですけど、役員陣の中で深い議論をした形跡が見られず、河野さんが決めたことに対して、予定調和な形で落とし所を探している印象を受けました。当時は目標に必達するという危機迫るような部分は少し薄かったと思います。

九法:それでは、より関係値を深めていく中で改めて発見した経営者としての河野さんとシタテルの魅力はどんなところでしょうか。

細野:河野さんについては負けず嫌いというところですね。月に一度の打ち合わせの中でも、こちらが言ったことに対して少しずつ進化されているのが分かるんです。独学で学ばれたり、いろんなところで情報を仕入れたり、こちらから聞かれそうなことを先回りして調べてみたりと経営者としていろんなことを試されながら、組織体制についてもオペレーションの部分も含めて大きく改善されているんですね。そういうところに企業の成長性を改めて感じさせられました。また、組織にいる人間やカルチャーがとても純粋で、シンプルに言うと「嫌な人がいない会社」なんですね。一人一人がやりたいことを持っていて、それに挑戦させてあげる環境がこの会社にはあって、そのあたりには非常に大きな伸びしろを感じます。

九法:BIGと投資家と投資先の関係になってから、河野さんは細野さんから受けた言葉の中で印象深いものはありますか。

河野:役員会のことも痛烈に響きましたが、もうひとつ「株主軽視をしてるんじゃないか」と言われたことがありまして。最初は疑問を抱いたんですけど、よく考えてみると急遽打ち合わせのリスケをお願いしていたことなんかがあったりして、もっと株主の方々と誠実に向き合わなければということを教えられました。ほかにも、「視座の高さ」についてだったり、「ネガティブ・ケイパビリティ」の重要性だったり、経営者として勇気付けられる言葉を常にかけてもらっています。

九法:さて話も終盤に入ってきましたが、現在はコロナ禍によってどの企業も難しい状況にある中ではありますが、これからのシタテルの展望についてお二人のお考えをお聞かせください。

細野:私は今年からシタテルさんが新たに始めている「sitateru SPEC(シタテルスペック)」に大きな期待を感じています。これは受発注生産で在庫を持たないまま、小ロット・多品種の商品が作れるサービスで、インフルエンサーの方々などが自らデザインしたものを形にして売り出すためのプラットフォームとして少しずつ活用され始めています。これはBASEやShopifyのように伸びていくサービスになる可能性を秘めていると思います。このあたりを事業のポートフォリオの中に持っているのも企業の強みです。シタテルさんにはこれからもファッション業界やアパレル業界において新しいエコシステムを生み出す革新的な存在であり続けて欲しいと思っていますし、私たちも応援していきます。

河野:事業としてはようやくクラウド上で取引が円滑に行える環境ができてきたところで、プラットフォームを十分に確立するまでにはまだまだ時間がかかると思っています。その上で自社だけで市場やプラットフォームを拡大していくのは難しいと感じており、今後はパートナー戦略が重要になってくると考えています。弊社には既に約2万社の会員登録と約1200社のサプライヤーネットワークというアドバンテージがあるので、内側と外側をうまく結び付けながら拡張と拡販を目指していきたいです。そして、そうした中でただ事業を拡大するだけではなく、現状60%弱といわれている日本のアパレル市場の在庫消化率を2025年までに70%まで引き上げることを目標にしながら、周囲とも手を合わせて進んでいきたいと考えています。

九法:いろいろ聞いていくうちにお二人のビジネスパートナーとしての強い絆を改めて感じました。SDGs、サステナブル、サーキュラーといった文脈で語られることの多い今の世の中にとても合致した企業として、今後のシタテルの成長に注目したいと思います。本日はありがとうございました。

一同:ありがとうございました。

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