【対談】Wovn Technologies × 凸版印刷× Bonds Investment Group

BONDS

グローバルな成長を狙うには、サイトやアプリ等の多言語化対応は重要なポイントとなります。そんな潮流の中で、Webサイトやアプリを様々な言語へと翻訳できるサービス開発・ソリューションを提供しているWovn Technologiesの代表、林 鷹治氏とBIGで同社を担当するパートナー細野が、出資者でもある凸版印刷の坂田氏をモデレーターに迎え、対談を行いました!

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「半歩進んだ変人」でなければ、社会は変えられない

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坂田:まず、お二人はどのように出会い、どんないきさつで投資を実施するに至ったのかをお伺いできますか?

細野:出会いは2016年の春、福岡のB Dash Camp(国内外のインターネット業界のキーパーソンとスタートアップが参加する招待制イベント)でしたよね。初めてお会いしたとき、半ズボンをはいていらして非常に印象深かったです(笑)

林:確かにその頃は半ズボンでしたね(笑)。そのイベントに商談スペースのような場所があって、そこで初めましてとご挨拶させていただきまして。

坂田:初対面の印象はいかがでしたか?

林:正直、非常に怖かったです(笑)。いらしたのが、BIGの野内さん、細野さん、日野さんとごつい印象の方ばかりで……。僕はジェフ(共同創業者)と2人でいたのですが、ベンチャーファイナンスに関しては右も左も何もわからない状態だったので、本当に怖いという印象しかなかったです。

細野:当時は資金状況もかなり厳しい状態でしたよね。

林:そうですね、お金に関しては本当に厳しかったです。まるで学生のような資金計画で。

坂田:そんな状況の中で、投資してほしいと考えられたのはどうしてですか?

林:それ以前にも何社か声かけはあったんです。ただ、数字に細かいとか、カルチャーが違うと感じられた投資会社ばかりだったんですよね。僕たちの持っている空気感と全然違う。でも同時に、その空気感は日本でビジネスを行なう上ではマストなんだろうなとも感じました。そんな中で、BIGさんのセールス先やマーケティングなどの考え方は、これからの僕たちに必要なんだろうと思ったんです。

坂田:林社長はインターネットやテクノロジーが大好きな一方、それをビジネスにする部分が弱かった。そんなときに様々なデジタル産業を投資という形でうまく育てているBIGが、魅力的に映ったということでしょうか。

林:そうですね。

坂田:細野さんは起業家を選ぶ際にご自身ならではのお考え、こだわりをお持ちだと思うのですが、林社長やWOVN.IOのサービスなどについては、どのような印象を持ちましたか?

細野:う~ん、なんでしょうね(笑)。

林:え? 理由はなかったんですか?!

(一同笑)

細野:とにかく、なんだか面白い、ユニークな人だなという印象はあったんです。僕は個性的な人が好きなんです。まともなやつではなく、変なやつが世の中を変えると思っているので。ただ、ぶっ飛びすぎていると世の中に適合できないので、半歩くらい進んでいる人が良いなというのが、投資する際の基準になっています。

坂田:なるほど。

細野:林さんは芯のある変な人という印象だった。あまりビジネスの話よりも、物事の考え方とか社会・世の中に対するアプローチの仕方みたいな話が多かったと思います。

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どんなビジョンを持ち、いかに社会を変えられそうかを見て、投資を決める

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坂田:お二人の様子を見ると、それぞれに信頼関係がすごくあるように感じるのですが、そんな関係になったきっかけはありましたか?

林:一番象徴的なのは、ブリッジファイナンスかもしれないですね。個人的なウエットな関係と、ビジネス上のつながりが良い感じに重なった感覚を持つことが出来ました。

坂田:確か、あのときは仕掛けたんですよね。

細野:ええ、バリュエーションを上げるために仕掛けましたね。

坂田:そんなきっかけがあって、どうやって社会を変えていくかという話できるような信頼関係へと変化していったのですね。

林:はい。そのブリッジファイナンスは、エンタープライズに振ってスケールさせていくという象徴的なタイミングになりました。例えばセールスチームの拡大とか組成もそのタイミングで出ていますし、社会インフラにしていくというビジョンをきちんと言語化し、明確にしたのもそのタイミングです。ブリッジファイナンスによって、会社が結構変わったと思います。

坂田:資本政策上の投資家との関係式の再現性があって、すごくいい話ですよね。

細野:今の話を聞いていて、なぜ投資したいのかという理由が明確によみがえってきました。

坂田:おお。……と言いますと?

細野:開発速度はもちろんですが、このプロダクトは流行るって思わせるパワーがすごかった。僕らは一部の人だけが使うサービスよりも、あまねく色々な人が使うサービスを支援していきたいという思いで動いています。WEBサイトやアプリが急激に増え続け、情報ボリュームがとんでもない状態になっていく中で、この情報処理をどうしていくのだろうという疑問は心の奥底に引っかかり続けていたときにWovnのサービスを知り、多言語にオートマチックに変えていける技術は魔法のようなものだと感じられたんです。

坂田:確かに素晴らしいサービス、テクノロジーですよね。

細野:でも出資に際しては、実は内部では反対がありまして。投資委員会が紛糾して、林さんに来ていただくことも多々ありました。通常はこんなことないんですよ。でも自分の中ではこれは伸びるだろう、いけるだろうという思いがあった。そのときの自分はゾーンに入っていたのかもしれませんね。

坂田:すごいですね。

細野:当時、オプティマイズというサービスがあったんですが、それをベースにした言語版として、林さんはWovnを立ち上げられています。当時、僕たちはオプティマイズを扱っていたので、それと同じようなアナロジーでいけるんじゃないかという思いがあった点が強かったですね。

坂田:細野さんの中ではどのように進めるかが見えていたわけですね。

細野:ありましたね。社内だとどうしてもマーケティング寄りで、その観点から適用できる/できないという意見が出るわけですが、実はそこはあんまり関係ないのではないかなと。

坂田:企業の哲学、人柄の整合性がきちんとあって、ビジョンを実現されるだろうという印象をお持ちだったんですね。

細野:きっと売れるだろうからと、売り方に細かく触れることもあまりありませんでしたね。坂田さん、すなわち凸版印刷さんは、なぜWovnに出資したんですか?

坂田:我々は印刷の次の情報産業の担い手、プレイヤーを作っていきたいというビジョンを持っていて、Wovnさんの「あらゆるWEBの情報を多言語化する」というのがまさにそれに合致すると思ったんです。想像しやすいシナジーを、みんなで一緒に考えてやった感がありますね。

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自分たちにないビジネス視点を得られるのは、投資家と協働するメリット

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坂田:投資先と信頼関係も作っていく中で、起業家自身に気付いてもらわないとダメだというタイミング、事柄も少なくないと思います。林社長は、細野さんからのアドバイスなどで印象深かったことはありますか?

林:僕たちがインフラで参考にしている会社があるのですが、細野さんに「それをもっと前面に出したほうがいいよ」とアドバイスいただき、その通りに動いてみたら自分たちのビジネス・ビジョンの解像度がすごく上がったんです。ベンチマークにどの企業を据えるかという話ではあるのですが、ベンチマーク企業の思想や哲学を参考にして、自分たちを振り返るだけでこうも変わるのかと。

細野:ベンチャー企業はどうしても抽象的な話が多いので、抽象的な話をそのままにしてもなかなか進行しないよ、視座を上げていくためにもっと具体化させた方がいいよねという話はよくしますね。プロダクトをどうするかだけでなく、会社や組織をどうするかを考え、経営志向にいこうなんていうこともよく話します。

林:自分の弱いところをさらけ出せる投資家って、細野さんと坂田さんくらいなんですよね。一般的に起業家と投資家の関係であれば言わない方がいいだろうということも、細野さんには言えてしまう。

坂田:僕にとっては、起業家から「経営課題でこういうところが大変なんだけど、一緒に考えてもらえませんか?」なんて言われるのは、本当に嬉しいですね。細野さんはいかがですか?

細野:ついつい利害関係になってしまう起業家と投資家も多いと思いますが、本来は何でも相談し合える関係が一番ではないでしょうか。一緒にご飯を食べたり、気楽に雑談をする時間というのも大切だと思います。

坂田:雑談というと、どんな話をしているのですか?

林:サウナの話だけで1時間とか(笑)。もちろんそれだけではなく、ラグビーやビジネスの話もしますし……。

細野:ビジネスの話は3割かな(笑)。最初にビジネスの話をして、すぐに解決しなかったら雑談に移りますね。

林:社内でも1on1をやっているのですが、その場で雑談が出るぐらいがベストだと思っているんです。

細野:確かにそうだよね。

林:雑談することが大事というよりも、雑談できる関係であること・必要なことをもう伝えているという証しとなるのが雑談だと思うんです。

坂田:今、100人以上社員がいらっしゃると思いますが、どれくらいの頻度・レベルで1on1をやってらっしゃいますか?

林:社員全員は難しいのですが、部長陣とは必ず毎週やるようにしています。

細野:エンジニアが組織を作るというと、技術欲だけではなく組織を作れるのが良いエンジニアだみたいな話もよく聞きますが、林さんはどう?

林:一番大事にしているのは相互リスペクト。僕たちのビジネスはソフトウェアが中心にあって、売る人、管理する人、作る人といろんな職種の人がそれぞれの役割を担っています。なので、お互いがお互いをリスペクトしている状態でなければ、ビジネスは絶対うまくいかないと思うんです。例えば「この機能がないから売れない」というのはWOVNではあり得ない。「営業がこんな契約とってきやがって」というものもちろん無し。だから採用基準でもEQ(感情指数)が一番大事で、人に対して敬意を持てる人を大切にしています。

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Withコロナでは、あらゆるやりとりを文書化して残す重要性が見直される

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坂田:林社長、今後の展望はいかがですか?

林:会社としては、もちろん日本を代表する企業を目指します。僕らは“社会インフラ”だと思っているのですが、国内企業のあらゆるサービスの半分が、実は裏側でWovnを活用しているくらいになったら、欠かせないインフラになった証拠だと思うんです。

細野:印刷、電話などの産業と近い動きだよね。

林:はい、似ていると思います。そのためにも、今後は組織をもっと臨機応変にしていきたいと考えています。今まで僕らはリアルなものをすごく大事にしていて、エンジニアチームもきちんと出社をして看板でタスク管理をし、物理的なホワイトボードに付せんを貼ってタスク管理をしていました。ITの世界に生きているからこそ、それを大事にしようっていう感覚でやっていたのですが、コロナ禍でそれが難しくなり、臨機応変に対応する大切さを実感しました。

それから、これからはすべてをドキュメントに残す必要性も感じています。エンジニアはリモートワークがもともと向いている職種ではあるのものの、僕らの組織は多国籍であることが課題の一つ。言語が違うので、基本的にハイコンテクストな会話ができないんです。従来はそれをフィジカル・リアルでクリアしていたのですが、リモートになったらうまくいかなくなってしまいました。例えばSlackで一文を送るにしても、全然違う伝わり方をすることも少なくない。だから、チャットの履歴、仕様書、議事録――。全部をドキュメントにすることで、あとから確認、ときには翻訳をかけることで、多国籍チームでもナレッジコントロールが図れます。さらには文化醸成の問題もクリアできると考えています。例えば村上春樹さんのファン、いわゆるハルキストは、村上さんが書いた文章を大量に読んでいることで、村上さんの思想・志向を理解しています。それと同じように、社内の文書を大量に読むことで、会社の文化や歴史、共通認識などを自然と理解できるのではないかと思うんです。withコロナ時代は、「文書を残すこと」の重要性が再認識されるのではないでしょうか。

坂田:林さんは、京セラ創業者の稲森さんに近しいように思えます。最初は自身の技術を世界に知らしめるところから始まり、現在のアメーバ経営へと変わっていくという点が似ているような気がします。

林:恐縮です。

坂田:でも、そういう「新しい産業を創ろう」という哲学が、細野さんに通じるところもありますよね。

細野:そうですね。僕にはもともとダイバーシティー志向で、これからはシンプルさを追求してユニバーサルデザインになっていくだろうという思いがありました。多様性だからこそ、ユニバーサルデザインはどこに行っても通用するし、そこに普遍性を求めている人は必ずいるはずだと。結局、産業は普遍性にどこまで迫れるかという話だと思うんです。だから普遍性をDNAとして持っている人は絶対強いはず。

どこの会社でも中央集権的にやったり、少し緩めて放任主義的にやったりという繰り返しが起きている。それに近いことが、社会レベルで起きているのではないでしょうか。

林:どこかのベクトルに向かってがんばると、反対側にひずみが出来て、それを解消するために反対側を働かせようとする。その繰り返しで双方が動くことになるということですよね。

坂田:最後に、お互いに今後期待することをお聞かせください。

細野:Wovnさんには、ぜひとも日本を代表するようなSaaS企業になってほしいですよね。それからファンドのLP(有限責任組合員)になってほしい。自分たちが出資したところが成長し、認められたという形になるということですからね。

林:僕はBIGさんに1位(Forbes JAPANによる「日本で最も影響力のあるベンチャー投資家ランキング)を取っていただきたいですね。確か最高位が3位だったはずなので、それを僕らの力も後押ししながら1位にするぞ!と思っています。

一同:ありがとうございました。

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